2019.12.14
パニック障害、現在は、パニック症となりましたが、まだパニック障害の方が知名度が高いかもしれません。
(2014年 DSM-5でパニック症に名称変更。疾患名が変わりました。)
パニック症は、珍しい病気ではありません。データを見てみましょう。
欧米諸国の若者と成人におけるパニック症の12カ月有病率(12ヶ月のうちに病気にかかる人の割合)は約2~3%。アジア、アフリカとラテンアメリカの国々で1~0.8%。
女性が男性の約2倍。
データから見ると、日本人なら100人いたら1人くらいはこの1年でパニック症にかかったということになります。
パニック障害は特にカウンセリングが有効な疾患と言われ、特に、認知行動療法CBT(Cognitive Behavioral Therapy)が盛んに行われています。
今回は、公認心理師の酒匂努先生、長谷川淳先生にパニック症に対する『認知行動療法』について教えていただきたいと思います。
本記事の内容
このような方に向けて書いています
目次
まず、認知行動療法とはどんなものか、公認心理師の酒匂努先生に教えていただきました。
酒匂努先生は、精神科主体の総合病院で、うつ病、パニック症を初めとした精神疾患にお悩みの多くの患者さんに関わっておられます。
認知行動療法(CBT)は、実は様々な技法の総称です。
認知療法・行動療法・マインドフルネス(瞑想)・リラクセーション法、その他多数。
例えるなら、
ガスト、デニーズ、ココスなどを総称して「ファミレス」というのと同様、認知行動療法(CBT)も上記のような様々な技法の「総称」です。
これらの技法はうつ病だけでなく、双極性障害、社交不安症やパニック症(※)などの不安症、強迫症、など様々な精神疾患に有効とされています。
※SAD:Social Anxiety Disorder 社会不安障害、社交恐怖とも呼ばれることがあります。
※PD:Panic Disorder パニック障害とも呼ばれることがあります。
※OCD:Obsessive Compulsive Disorder 強迫性障害と呼ばれることもあります。
2014年 DSM-5で社交不安症、パニック症、強迫症に名称変更
この疾患にはこの技法が有効というのはある程度ありますが、実際には1人の患者さんに対しても症状や時期、タイミングを見計らって認知行動療法(CBT)の中から複数の技法を用いることも多くあります。
認知行動療法は、パニック症やうつ病で、科学的根拠に基づいて有効であると報告されています。
報告によると、認知行動療法は、薬物療法と同等の効果があり、効果の持続時間は薬物療法以上という報告があります。
多くの臨床研究により不安障害とうつ病に対して効果が高いと認められています。
薬物療法とカウンセリングは、脳の別の部分に作用していることも分かってきており、パニック症に対してはまず薬物療法ですが、認知行動療法を併用することで、もっと治療効果が高まるのではないかと期待されています。
認知行動療法(CBT)の効果を脳科学的な面から見てみたいと思います。
サポート医師、日本医科大学千葉北総病院 教授 木村真人先生に教えていただきました。
まずは、2014年に報告されたうつ病に関する研究結果から。
nature News & Comment(2014.11)の中のDepression: A change mind(うつ病:心の変化)
【薬物療法】
うつ病になると、扁桃体(ピンクの部分)が、はたらき過ぎている事が分かっています。
抗うつ薬には、はたらき過ぎの扁桃体を抑え、落ち着かせる力があります。
【認知行動療法】
また、うつ病では前頭葉(ブルーの部分)のはたらきが弱くなっている事が分かっています。
前頭葉のはたらきを取り戻すのに、認知行動療法が良いという研究結果があります。
それでは、認知行動療法と薬物療法の効果についての研究結果を見てみましょう。
下のグラフをみてください。
認知行動療法(CBT)を受けて良くなった患者さん(ピンクのライン)
薬物療法で良くなってお薬をやめた患者さん(ブルーのライン)の再発率です。
グラフは、うつ病が良くなった患者さん100%からスタート。
うつ病が再発したらラインが下がります。
薬物療法の患者さんは12~14カ月の間で、すでにちょっと下がっています。
これは再発した人がいることを表しています。
グラフを見ると16カ月後の時期
認知行動療法(CBT)は90%台なのに、薬物療法は70%あたりのところに
24カ月後の時期
認知行動療法(CBT)は80%台なのに、薬物療法は40%台になっています。
薬物療法は、薬をやめると再発のリスクが高いと言われていますが
認知行動療法(CBT)を受けるとうつ病が再発しにくくなることが明らかになっています。
最近では、薬物療法が効く人と、認知行動療法(CBT)が効く人では脳のはたらきに違いがある事が分かってきています。
McGrath, C. L. et al. JAMA Psychiatry 70, 821–829 (2013).
ポイントは【島皮質(とうひしつ)】という部位です。
右脳を見てみましょう。
右脳の島皮質、右前島皮質(みぎぜんとうひしつ)は扁桃体と前頭前野を連絡する働きがあります。
右前島皮質(みぎぜんとうひしつ)が活性化している人
つまり良く働いている人には薬物療法が良く効きます。
このタイプは、扁桃体と前頭前野の連絡が良い状態です。
扁桃体を薬で落ち着かせると、うつ病に関連する前頭前野が反応しやすいため、薬物療法が良いと考えられます。
不活性化、つまりあまり働いていない人には認知行動療法(CBT)が良く効きます。
このタイプは、扁桃体と前頭前野の連絡があまり良くありません。
扁桃体を落ち着かせる薬物療法というより
前頭葉(ブルーの部分)のはたらきを取り戻すカウンセリングが良いと考えられています。
薬物療法の効果があまり感じられない方、薬物療法で副作用ばかり出てしまう方は、一度認知行動療法(CBT)を試してみましょう。
脳の働きが、認知行動療法(CBT)に合うタイプの可能性があります。
認知行動療法(CBT)は最も研究が進んでいる心理療法の一つですが、その効果機序については、まだ十分に解明されていないと言われています。
薬物療法と同等の効果、そして効果の持続は薬物療法以上の認知行動療法(CBT)。具体的にはどのようなことが行われるのでしょうか。
こちらは、公認心理師の長谷川淳先生にお話しをお伺いしました。
長谷川先生は精神科病院、メンタルクリニックでお仕事をされる中で、パニック症で様々な治療やカウンセリングを受けたものの、なかなか上手くいかなかったという症例を多数担当された経験があります。
このようなことをリスト化することから始めていきます。
怖い場所は分かりますが、なかなか怖い理由や自分がどうやって不安を紛らわしているかは、聞かれても即答できない場合が多いです。
そこを解き明かしてゆくのがカウンセリングの役割です。
それでは、長谷川先生に引き続きチャレンジについてお聞きしてみたいと思います。
【怖い場所:歯医者】
怖い理由①歯医者の「音」が怖い
対処法▶Youtubeで歯の治療用動画を定期的にみる
怖い理由②歯医者の「消毒液」のにおいが嫌
対処法▶消毒液を購入し嗅いで慣れる
このように、理由をはっきりとさせて、歯医者に行く前に練習します。
いきなりチャレンジすると辛いので、相談しながら不安、恐怖の少ないものから始めていきます。
この方法の難点は、効果抜群なんですが、怖いことにチャレンジするので説明を丁寧にしてから実施しないと危険ということです。
専門家と一緒に取り組むことで、難しいチャレンジをクリアしてゆきましょう。
チャレンジなので、色々失敗もあったりしてくじけそうになることもあります。また、何から取り組んだら良いのか分からないということもあるでしょう。
(ダイエットとか英会話とか…一人でやると大体くじけますね。)
不安へのチャレンジという、自分一人では逃げたくなってしまうようなこと。
今日はやめておこう…明日からにしよう…なんて、そうやって月日が過ぎて行ってしまうこと、良くありますね。
パニック症を沢山サポートされてきた専門の先生に並走してもらうのは、成功ポイントの一つです。
どんなパニック症に、認知行動療法(CBT)が効くのか。
パニック症治療で注目を浴びている認知行動療法(CBT)。
多くの経験の中で、どのような方に特におすすめなのかを、長谷川先生にお伺いしました。
例えば、電車に乗りたいけど、昔電車の中で発作が起きたので、電車が怖い…。電車に乗れないというような症状が典型的です。
以下の5つの状況のうち2つ以上が怖い、不安。
注:現在、『広場恐怖症』はパニック症の存在とは関係なく診断されるようになりました。パニック症と広場恐怖症、両方の診断をされている方も多いかと思います。
例えば、一度、電車でパニック症の発作が起きた場合、満員電車に乗ると、また発作を起こすのではないかという不安のことです。
引き続き長谷川先生にお伺いしてみましょう。
今までの経験を振り返ってみると、行きたいところ、叶えたいこと…そういう目的や目標があると改善しやすいです。
目的や目標といっても身近なものでOKです。
数駅離れたカフェに行きたい
テーマパークに行きたい。
など。そんな希望を持っていると改善しやすい印象があります。
目的、目標…そう言われてもぱっと思いつかないという場合、カウンセリングの中でパニック症が改善したら、どんなことをしたいと思っているのかなどをお話しして確認してゆくことも多いです。
認知行動療法(CBT)は、医師、公認心理師、臨床心理士、現在は看護師によっても行われています。
全員ができるわけではなく、専門のトレーニングを受けた専門家によって行われます。
精神科や心療内科だからといって、全ての施設で行われている訳ではありません。
認知行動療法(CBT)を受けてみたいと思ったら、まずは主治医の先生に相談してみましょう。
現在受診している医療機関で受けることができるかもしれません。
また、専門家が施設にいない場合は、主治医にカウンセリング施設を紹介してもらいましょう。
近隣に認知行動療法(CBT)の専門家がいない場合、オンラインカウンセリングを利用するという選択肢もあります。
自分でインターネットなどを利用して認知行動療法(CBT)にチャレンジしてみるという方法もありますが、認知行動療法は、様々な困難にチャレンジするという特性上、一人での実施が難しいと考えられます。
本格的に取り組みたい、今度こそパニック症を治したいという時には、専門家に相談しましょう。
個人差があり、一概には言えませんが、1回で認知行動療法(CBT)が完結するということはありません。
回数、カウンセリングのペースは、専門のカウンセラーが初回に大まかに判断、計画し、本格的に認知行動療法が開始されるようです。
1回のカウンセリングは50分程度が良いといわれており
治療期間としては3ヶ月以上かかる方がほとんどです。
初回に担当のカウンセラーと回数やペース、見通しについて相談しましょう。
カウンセリング(心理療法)は、医療機関でも保険がきかず、自費診療です。
しかし、認知行動療法(CBT)は、保険が適用されるケースがあります。
以上の場合は、保険適用となります。
2010年にうつ病治療として、認知行動療法(CBT)が、保険の適用となり2016年4月からは、社会不安障害・強迫症・パニック症・PTSDも保険の対象
看護師も認知行動療法ができるようになるなど、保険適応の幅が拡大されました。
ただ、保険で認知行動療法が受けられる施設は、インターネットの検索等で調べると明らかですが、大都市に偏在しており、地方から通院するには、時間的にも経済的にも現実的ではありません。
また、実際に保険適用で認知行動療法を行っている施設での体験の中には
といった声も聞かれます。
自費診療で行われている施設を調べてみると
東京都内のカウンセリングルームでは1回の認知行動療法が10,000円~15,000円程度で行われているところが多いようです。
保険診療か自由診療かによって、費用は大きく異なります。
医療機関でもカウンセリングは自由診療で行っているところも多く、金額はまちまちですので、事前にクリニックへ問い合わせておきましょう。
「保険診療ですか?自由診療ですか?」と聞けば答えてくれるはずです。
オンラインカウンセリングのセラピラシスには、普段、医療機関や専門施設で認知行動療法を行っている専門のカウンセラーが多数所属しています。
経験豊富な先生とパニック症の治療に本格的に取り組んでみませんか。
医療機関と連携しているオンラインカウンセリング。安心して認知行動療法を受けていただけます。
初回面談は通常よりも10分長く時間を取っています。
どのようなペースで、どのようなスケジュールで進めてゆくのか?担当のカウンセラーの先生としっかり話し合いましょう。